乗り越えられない悲しみに寄り添いながら生きていく。映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を観た。
乗り越えられない悲しみにそっと寄り添う映画
「もし、あの時、ああしていれば」「もし、あの時、あんなことしなければ」
誰でも一度は、そう思ったことがあるだろう。
しかし、いくら後悔しても時間はもとに戻らない。
後悔とともに生きていくことほど、つらいことはない。
映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」に出てくる主人公のリーは、
故郷を捨て、心を閉ざし、毎日を死んだように生きている。
兄の死をきっかけに、故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに帰ることに
なる。兄の遺言で、死んだ兄の息子・パトリックの後見人になることになり、
一度捨てた故郷の町で、封印していた過去と再び向きあうことになっていく。
物語は、現在と過去が交差しながら進んでいき、次第にリーの過去の
出来事が明らかになっていく。
深い喪失感と罪悪感を抱えながら生きているリーの心情をわずかな
表情の動きと佇まいで演じたケイシー・アフレックの演技がすごい。
過去から逃げてきたリーが、再び過去と向き合い自分の気持ちを
語るシーンに、涙腺が崩壊。
いくら時間が経過しても、簡単には乗り越えられない悲しみがあるし、
無理に乗り越えようとしなくてもいい。
少しづつ前へ進んでいけばいいのかもしれないって思った。
映画は、抑制を効かせた演出と演技で、淡々と進行していくが、
深刻になり過ぎず、甥のパトリックの存在に救われる。
簡単には乗り越えられない深い悲しみと罪悪感に、もがきながらも
生きていく主人公の姿に、観る側はいつしか自分の人生と重ねてしまう。
まるで、映画の中に自分の人生を見るかのような思いを抱いてしまうのだ。
ありきたりのお涙頂戴も、感動のハッピーエンドもないけど、静かに心に
寄り添い、深い余韻を残してくれる作品だ。