人間の深層心理をあぶり出す映画「セールスマン」を観た
イラン映画「セールスマン」を観た
(C)MEMENTOFILMS PRODUCTION - ASGHAR FARHADI PRODUCTION - ARTE FRANCE CINEMA 2016
イラン映画の名匠・アスガー・ファルハディ監督の映画を観た。
ファルハディ監督の映画は、今までに「彼女が消えた浜辺」「別離」
「ある過去の行方」を観ているが、どの作品にも共通しているのが
人間の深層心理をあぶり出す視点が鋭いことだ。
物語としては、劇団に所属している夫婦が、ある日妻が何者かに
襲われたことをきっかけに、夫婦の関係がぎくしゃくし始める。
事件を表沙汰にしたくない妻と、犯人探しに執念を燃やす夫との
感情のすれ違いをスリリングに描いた心理サスペンスである。
イランでは、映画に対して厳しい検閲があり、作品の内容や描写に
制約があるらしいが、ファルハディ監督は「あえて見せない手法」で
緊迫感あふれるシーンを作り上げている。
観る側の想像力をかき立て、派手な演出はなくてもハラハラさせる
計算された緻密な脚本力に、ただただスゴイとしか言いようがない。
映画から見えてくる人間の本性
C)MEMENTOFILMS PRODUCTION - ASGHAR FARHADI PRODUCTION - ARTE FRANCE CINEMA 2016
夫のエマッドの心情の変化は、誰でも同じ立場にいたら、そうなるのかも
しれないと、思わせてしまうほどリアルだ。
初めは、妻をひどい目に合わせた犯人を捕まえたいという正義感が、
次第に犯人を捕まえ、自らの手で裁きたいという復讐心に変わっていく。
そして、犯人を追い詰めていくと同時に、妻のラナも追い詰められていく。
怒り、不安、嘘、疑い、体裁、復讐、許しなどの感情が渦巻き、人間の本性が
むき出しになっていく過程に、緊張感がみなぎり画面から目が離せない。
妻は犯人を許そうとするが、夫は犯人を許さず、執拗に追い詰めていく。
そこまでして夫がこだわるものは、何だったのだろうか?
観終わった後に、静かにいろいろと考えさせられる。
人間の中にある抑えのきかない業のようなものが、じわじわと
あぶり出されていく様は、見応えがある。
派手なアクションシーンや、CGを駆使した映像、豪華なキャストなど
お金をかけたエンターテイメントの映画も、もちろん面白いが
私自身は、複雑な人間の内面を描いたものに強く惹かれる。
日常の中で起こる些細な出来事をきっかけに、先の読めない物語へ
観客を引き込んでいく映画が好きだ。